思い出を売る男
※この記事は冒頭に「思い出を売る男」のストーリーが書かれています。
※しかも、記事自体かなり長文です(笑)
「思い出を賈ります。
美しい音楽によみがえる幸福な夢。
君よ、思い出に生き給え。
思い出は狩の角笛・・・」
終戦間もない東京の、とある街の薄暗い裏通り。
古ぼけたサクソフォンを吹きながら、一人の男が売るものは「思い出」。
そこに一人の少女がやってきます。
「おじさん、どこから来たの?何を売っているの?」
「遠いところさ。おじさんは思い出を売っているんだよ」
「ふーん。いくら?」
「100円さ。」
「高い!私の花は1束80円よ。」
「君の花束は80円でも3日もすれば枯れてしまう。でも、思い出は枯れることはないんだ。ずーっと残るんだよ。」
私にも売ってほしいとせがむ少女に、男は言います。
「君には売れないんだ。思い出がないからね。でもあと10年待ってごらん。君には素敵な思い出ができているから。」
無邪気に未来を楽しみにする少女。
そんな少女を見送り、男はサクソフォンを奏でます。
その音色に引き寄せられるように、街の女がやってきます。
戦争で出兵し消息不明になった愛する人、生き別れになった我が子、そして被災し亡くなった家族・・・何もかも失い、生きることにも疲れ、「私は醜い」と自分を卑下する女に唯一残されたのは、かつて愛する人が奏で、ともに歌った歌。
「私が歌うと、彼が伴奏してくれるの。彼はサクソフォン奏者だったのよ。」
男がサクソフォンで「巴里の屋根の下」を奏でると、街の女は愛する人との幸福な思い出をよみがえらせるのでした。
「今の君は醜い。でも、こんなに素敵な思い出がある。それだけが君を支える唯一の生き甲斐なんだ・・・妙な気起こすんじゃないぜ、きっとまた来るんだぜ」 と街の女を見送る男。
男の立つ裏通りに静寂が戻ったのも束の間。
今度は派手で目立つ格好をした広告屋が、太鼓を打ち鳴らしながらやってきます。
広告屋は、ここで商売するのなら、界隈を仕切っている黒マスクのジョオに仁義を通すよう忠告します。
「なぁに、あんたの売る物でも渡して挨拶すりゃあ、それで終わりさ」と広告屋は言いますが、男には売る「物」がありません。
思い出したい思い出など何一つないと言い、生い立ちや今の生活を話す広告屋に、男は言います。
「君のような人には思い出は要らないのかもしれない。羨ましいよ、君のような人生も」
人生なんて人それぞれだと言いながら、広告屋は、売る「物」のない男に代わって自分がジョオに話を通してやる、と約束し去っていきます。
そこへ今度は鼻歌交じりでG.Iがやってきます。
英語で問われ、返答に戸惑いつつも片言で会話する男。
G.Iが男に曲をリクエストしますが、男にはその曲が分かりません。
そこで、リクエストした曲「金髪のジェニー」を歌ってみせるG.I。
彼に合わせて男がサクソフォンを奏でると、路地の壁には母国に残してきた恋人ジェニーの思い出が現れます。
「元気かい?ジェニー」
「ええ、私は大丈夫。あなたこそ、大丈夫なの?」
壁に恋人の面影を感じ、会話を交わす二人。
恋人との思い出のひと時を心に感じ、G.Iは男に倍以上の代金を払います。
「こんなに受け取れません!」...